税理士事務所の経営者の間で、深刻な人手不足が大きな課題になっています。業務量の増加に対して、採用できる人材が不足し、既存スタッフの負担が増し続ける状況に直面している事務所は少なくありません。この問題の背景には、税理士試験の受験者減少や人口構造の変化といった構造的な要因があります。
しかし、人手不足は決して避けられない運命ではなく、適切な対策により解消することは十分に可能です。
本記事では、税理士事務所における人手不足の原因から、その解消方法、さらには具体的なツール活用までを紹介します。これを読むことで、自社の経営課題に対して実践的な対策を立てられるようになり、スタッフの働き方改善にもつながるでしょう。
税理士事務所で人手不足が進む背景
税理士事務所の人手不足は、一時的な現象ではなく、多くの構造的な要因が複合的に作用した結果です。この問題の本質を理解することは、適切な対策を講じる第一歩になります。
では、人手不足に至った背景にある要因を詳しく見ていきましょう。
税理士試験の受験者数が年々減少している
税理士試験の受験者数は年々減少傾向を続けており、この数字の変化は税理士業界全体の人材不足を象徴しています。2010年度には51,468人だった申込者数が、2021年度には35,774人にまで落ち込んでいます。この減少傾向は、業界への新規人材流入が減少していることを意味しており、将来の税理士事務所の人員確保に直結する問題になっています。
受験者数が減少している背景には、いくつかの要因があります。一つは、AIの発達により税理士の仕事がなくなるのではないかという不安が広がっていることです。また、試験の難易度が高く、何年も勉強に費やす必要があるにもかかわらず、給料や待遇面がそれほど良くないというイメージが若者に定着していることも大きな要因として挙げられます。
さらに、試験に合格するための条件が厳しく、一朝一夕の勉強では合格できないという認識から、税理士を目指すことを諦める人が増えているのが現状です。このように、複数の要因が相互作用することで、税理士試験離れが加速し、業界全体の人材不足につながっているといえるでしょう。
出典参照：税理士試験（2021年）の合格者数はどれくらい？受験者数の減少はなぜ｜株式会社レックスアドバイザーズ
中小企業・個人事業主の需要が高くなった
一方で、税理士に対する社会的なニーズは増加を続けています。特に中小企業や個人事業主の経理・税務に関する相談需要が高くなっており、税理士が対応すべき業務量は増え続けています。少子高齢化の進行に伴い、事業承継や相続に関する複雑な税務相談が増加し、単なる記帳代行だけでなく、経営コンサルティング的な役割を求める企業も増えています。
また、税制改正が毎年行われることで、中小企業や個人事業主が対応すべき税務上の負担が増し、専門家の助言を必要とする場面が増加している傾向です。このように、業務量が増加する一方で、業界に参入する新規人材が減少しているという、需給のミスマッチが発生しています。
結果として、既存の税理士事務所は、限られた人員で増加する業務量に対応せざるを得ない状況に陥り、スタッフの長時間労働が常態化する傾向が生まれてしまっています。
少子高齢化で労働人口が減っている
日本全体が直面している少子高齢化の問題は、税理士事務所の人手不足にも大きな影響を与えています。労働可能年齢人口が年々減少する中で、新規採用できる人材の絶対数が減少しています。特に、税理士試験の受験資格として一定の経験や学歴が必要とされる場合があるため、採用対象となる人材の層がさらに限定されてしまうでしょう。
また、労働人口の減少に伴い、税理士事務所に限らず様々な業界が人材確保に力を入れているため、競争が激化しているといえます。さらに、働き方改革により、労働環境の整備が求められるようになったことで、単なる安い給与では人材を確保できなくなってきました。
労働人口が減少する中で、既存スタッフのモチベーションを保ちながら、業務効率を高めるといった工夫が必要だといえるでしょう。
税理士事務所における人手不足解消の方法
人手不足は避けられない課題ですが、適切な対策により状況を改善することは十分に可能です。重要なのは、人材採用だけに頼るのではなく、業務効率を高め、スタッフの負担を軽減する取り組みです。
では、具体的にどのような方法があるのか、詳しく検討してみましょう。
業務のデジタル化・自動化
税理士事務所の業務効率を大幅に高める方法の一つが、業務のデジタル化と自動化です。従来、手作業で行われていた記帳業務や書類作成といったルーティン業務を、システムやツールを活用して自動化することで、スタッフが対応すべき業務量を削減できるでしょう。
例えば、銀行口座やクレジットカードのデータを自動で取得し、仕訳を自動生成するといったシステムを導入すれば、手作業による入力作業が大幅に減少します。さらに、クラウド会計システムを導入することで、複数の場所から同時にデータにアクセスでき、リモートワークにも対応しやすくなります。
また、AI技術を活用した文字認識ツールを導入すれば、領収書やレシートといった紙ベースの情報を素早くデジタル化でき、入力ミスも削減できるでしょう。業務のデジタル化を進めることで、スタッフが実際に行うべき業務は、より高度な分析や提案業務へシフトすることになり、やりがいのある仕事環境が実現できるでしょう。
業務フローの見直し
人手不足の状況下では、現在の業務フローが本当に必要かどうか、改めて検討することが重要です。長年にわたって継続してきた業務の中には、実は不要になったものや、より効率的な方法があるものが含まれている場合があります。
例えば、クライアント対応の際に複数の書類を印刷して面談していた場合、タブレットやノートパソコンを活用したペーパーレス対応に切り替えることで、作業時間を削減できるでしょう。また、定期的に行っていた書類整理の作業を見直し、必要な書類のみに絞ることで、無駄な作業を排除できます。
さらに、クライアントとのコミュニケーション手段を見直し、メールや電話以外にチャットツールを導入すれば、問い合わせ対応の効率が高まるでしょう。業務フローの見直しは、初期投資がほとんど不要であり、すぐに実施できる施策です。既存スタッフの知見を活用して、どの業務プロセスが改善可能かを検討し、実行することで、組織全体の効率が向上するでしょう。
クライアント対応の効率化
クライアント対応の工夫も、人手不足解消の重要な施策です。通常、クライアントからの問い合わせや相談には、対面やメール、電話などで対応しており、スタッフの時間が大きく費やされています。
ここに工夫を加えることで、対応効率を高められるでしょう。例えば、よくある質問や相談内容については、FAQページやマニュアルを用意しておき、クライアントが自分で情報を得られる環境を整えることで、問い合わせ件数を削減できます。
また、複雑な相談については事前にメールで概要を送付してもらい、対面の打ち合わせ時間を効果的に活用することで、1回の対応時間を短縮できるでしょう。さらに、オンライン面談システムを導入すれば、移動時間が不要になり、1日の中でより多くのクライアント対応が可能になります。
クライアント対応を効率化することで、スタッフが実務に費やせる時間が増え、結果として処理件数の増加にもつながり、限られた人員で対応する業務量の課題が軽減されるでしょう。
デジタル化による税理士不足の解消ツール例
業務効率化の具体的な方法を理解した上で、実際にどのようなツールが活用できるのかを知ることは、導入検討を進める上で重要です。
では、税理士事務所での導入実績が高いツールを詳しく見ていきましょう。
①freee会計｜電子帳簿保存法対応ツールで経理・会計・税務を楽に
freee会計は、クラウド会計システムの中でも特に使いやすさと機能性に定評のあるツールです。このシステムの大きな特徴は、電子帳簿保存法への対応が進んでおり、帳簿や書類をデジタルで一元管理できる点にあります。
銀行口座やクレジットカードとの連携により、取引データが自動で取得され、仕訳が自動生成される仕組みになっているため、手作業による入力作業が大幅に減少するでしょう。また、スマートフォンで領収書を撮影すると、AIが自動で金額や日付を認識し、仕訳に反映させるといった機能も備わっており、出先での情報入力が簡素化されています。
さらに、クライアントが自社で入力したデータにアクセスでき、リアルタイムで経営状況を把握できるため、経営コンサルティング的なアドバイスがしやすくなります。freee会計を導入することで、税理士事務所のスタッフが手作業に費やしていた時間を削減でき、顧問先企業のサポートに充てる時間が増えるという効果が期待できます。
②マネーフォワードクラウドBox｜連携に強みのあるクラウド会計システム
マネーフォワードクラウドBoxは、複数のシステムとの連携機能に強みを持つクラウドサービスです。会計ソフトだけでなく、給与計算システムや販売管理システムなど、企業が利用する様々なツールとの連携が可能になっており、データの一元管理が実現します。この統合的なアプローチにより、データの二重入力が不要になり、入力ミスが削減されるでしょう。
また、マネーフォワードクラウドBoxは導入実績が多く、税理士事務所でも採用している事務所が増えているため、サポート体制が充実しているという利点があります。複数のクライアント企業のデータを一元管理できる仕組みになっているため、顧問先が増加しても対応できる拡張性を備えています。
さらに、APIを活用したカスタマイズも可能であり、事務所独自の業務フローに対応させることが可能です。マネーフォワードクラウドBoxの導入により、異なるシステム間のデータ連携による作業が削減され、スタッフが実務に集中できる環境が整備されるでしょう。
出典参照：マネーフォワード クラウドBox – 電帳法対応ストレージサービス｜株式会社マネーフォワード
③Ez-AiOCR｜会計・税務に特化した文字認識ツールで専門用語も安心
Ez-AiOCRは、会計・税務領域に特化した文字認識ツールです。領収書、請求書、通知書といった様々な書類の画像から、テキストを自動認識し、必要な情報を抽出する機能を持っています。一般的な文字認識ツールと異なり、会計・税務分野の専門用語や複雑な記載方法にも対応しているため、認識精度が高いという特徴があります。
このツールを導入することで、紙ベースの書類をデジタル化する作業が大幅に効率化されます。例えば、クライアントから受け取った多数の領収書を、一度に大量処理できるため、スキャンと入力に費やしていた時間が削減されるでしょう。
また、認識精度が高いため、確認作業や修正作業も少なくなり、全体的な処理時間が短縮されるでしょう。さらに、Ez-AiOCRで抽出したデータを、会計ソフトに直接連携させることで、入力の手間がほぼ不要になります。Ez-AiOCRのような専門特化したツールを活用することで、税理士事務所スタッフが最も時間を費やしていた領収書処理作業が自動化され、人手不足の深刻さが緩和されるでしょう。
出典参照：会計事務所特化型AI-OCR｜Ezテクノロジーズ株式会社
税理士業界の人で不足解消は『CLOUD BUDDY』へご相談ください
税理士事務所の人手不足は、単なる採用の問題ではなく、業務効率化とツール活用を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。デジタル化によってどの業務が改善できるか、現在の業務フローをどう見直すべきか、クライアント対応をどう効率化するかといった検討には、業界知識と実践的な経験が求められるでしょう。
『CLOUD BUDDY』は、人手不足の解消に向けて業務効率化を支援してきた実績をもとに、貴事務所に最適なデジタル化戦略の構築と実行をサポートしています。ツール選定から導入、その後の運用支援まで、総合的にお手伝いすることで、スタッフの負担軽減と事務所の生産性向上を実現いたします。税理士事務所の人手不足についてお困りの場合は、ぜひ『CLOUD BUDDY』へご相談ください。
まとめ｜税理士の人手不足を解消してWLB（ワークライフバランス）を上げよう
税理士事務所の人手不足は、税理士試験の受験者減少、クライアント需要の増加、労働人口の減少といった複数の要因が絡み合った結果です。
しかし、この課題に対しては、業務のデジタル化・自動化、業務フローの見直し、クライアント対応の効率化といった具体的な対策があります。freee会計やマネーフォワードクラウドBox、Ez-AiOCRといったツールを活用することで、スタッフが手作業に費やしていた時間を削減でき、より付加価値の高い業務に集中できるようになるでしょう。
デジタル化を進めることで、人手不足という課題を克服するだけでなく、スタッフの働き方改善とワークライフバランスの向上につながり、事務所全体の持続的な成長が実現するでしょう。
